日本には約8万の神社が存在しますが、神社によっては境内に狐、牛、蛇や猫などの動物の像が置かれていたり、社殿などに彫られている動物たちもいます。
神社に動物たちがいる理由、それぞれの動物の役割などを、神道学者の茂木貞純さんの著書などを参考にしてまとめてみました。知っておくと参拝がより興味深く意義深いものになる「神社を守る10種類の動物」を紹介します。
神社に動物の像などがある理由
神社の境内にはさまざまな動物の像が置かれています。
社殿の装飾彫刻や天井画や石灯篭などに隠れていたりすることもあります。
どの動物がいるのかは祀られている御祭神によって異なり、それぞれには目的や役割があって置かれています。
もっとも目にするのは狛犬で、狛犬は神社を警護し魔除けの役割がありますが、狛犬以外にもキツネ、牛、龍、蛇などの像が置かれていることがあり、目的や役割はさまざまです。
以下のとおり、神社の動物は4つに分類されます。
神社の動物の分類・種類
各動物のリンクをクリックすると詳細にジャンプします。
分類 | 種類 |
1.警護・魔除け | 狛犬 |
2.神様自身(化身も含む) | ヘビ、ワニ(サメ)、シカ、オオカミ、キツネ、カラス、タヌキ など |
3.神使 | キツネ、牛(ウシ)、馬(ウマ)、獅子、犬(いぬ)、サル、カラス、ネズミ、ハト、ヘビ、オオカミ など |
4.その他 | ウサギ、ネコ、ゾウ、四神(しじん、青龍・朱雀・白虎・玄武)、十二支 など |
神様自身が動物、神様の化身の場合
神様自身が動物あるいは神様の化身である場合。
ヘビ、ワニ(サメ)、シカ、オオカミ、キツネ、タヌキ などです。
美しいヘビであったと伝えられる大物主神(おおものぬしのかみ)などが有名です。命がけで人々たちを助けたイヌや、神霊現象を引き起こしたキツネやタヌキを祀る目的で、神社にもそれらの動物の像が置かれていることがあります。
神様のお使いの場合
もっとも多いのが神様のお使いである神使(しんし)であり、神使の代表格が稲荷神社のキツネや牛などです。
キツネ、牛、サル、カラス、ネズミ、ハト、ヘビ、オオカミ など
神使は神様と参拝者・崇敬者の間を取り持つのが役目で、参拝者・崇敬者の願いを神様に伝え、神様の霊験(開運、縁結びなど)を人々にもたらすといわれています。
その他の場合
そのほかに、神話に登場した動物(大国主神の神話に登場する因幡の白ウサギなど)、神様の手助けをすると信じられた動物(蚕をネズミから守るネコなど)もあります。また、十二支や故事に登場する動物がみられることもあります。
ウサギ、ネコ、ゾウ、四神(しじん、青龍・朱雀・白虎・玄武)、十二支 など
ここからは、主だった神社の動物たちのご神徳、役割やその動物が関わっている主要な神社などを紹介します。
神社の狛犬(こま犬)
神社に参拝すると様々な狛犬像が出迎えてくれます。狛犬は神社の守護や魔除けと言った役割を果たす霊獣です。
狛犬は古代オリエント発祥のライオンが中国で「獅子」に姿を変えていき、仏教とともに「唐獅子」が日本に伝来したといわれています。また、朝鮮半島を経由した異国のイヌということで「高麗犬」と呼ばれるようになり、やがて「狛犬」に転じていったとする説があります。
つまり、外国からもたらされた「異形のイヌ」であり、狛犬は霊獣であり架空の動物です。
狛犬は雄雌で一対をなしており、参道の右側に多いのが口を開けた「阿形(あぎょう)狛犬」、左側に多いのが口を閉じた「吽形(うんぎょう)狛犬」が一般的です。陰陽思想では「阿が陽」「吽が陰」であることから「阿形」が「雄」「吽形」が「雌」とみなされることが多いようです。
「阿吽の呼吸」も神社の狛犬からきている言葉であり、互いに息が合い、優れた意思の疎通によって神社を守護するという意味があります。
狛犬のご利益
そんな狛犬は神前を守護する神の使い(神使)であり、邪気などが神社に近づかないように警護することが役目です。また、安産で多産であることから「子孫繁栄」のシンボルでもあります。
狛犬によるご利益は以下が多いです。
- 魔除け
- 厄除け
- 子孫繫栄
- 家庭円満
狛犬に会える神社
狛犬の場合ほとんどの神社で会えますが、以下の神社の狛犬像の姿形の特徴に人気があります。
- 花園神社(東京都新宿区):唐獅子型
- 八坂神社(京都市):旧官国弊社型
- 世田谷八幡宮(東京都):子連れ型
- 牛嶋神社(東京都墨田区):獅子山型
- 阿佐谷神明宮(東京都杉並区):玉乗り型
神社の龍
神社仏閣の装飾彫刻には麒麟や鳳凰といった聖獣・霊獣が多く見られますが、龍は中国で皇帝の象徴であったことから、とくに重要な場所に飾られてきました。
また、龍は水を司るとされることから、建物を火災から守るという意味から置かれることも多く、それらの影響が日本にも伝わり、やがて龍神として神社で祀られるようになったという説があります。
ただし、日本の龍には他の様々なイメージが混ざっています。日本古来の蛇神(水神)、仏典に登場する龍などがあり、龍宮なども仏典に由来します。
海の神・綿津見神(わたつみのかみ)は本来は龍と無関係ですが、海中にある屋敷が龍宮と同一視されたため龍神とみなされるようになったといわれています。
また、龍(辰)は十二支の一つでもあり、四方を守護する四獣の一つ(この場合は青龍)でもあるので龍神として神社で祀られるようになったともいわれています。
龍のご利益
龍は天に昇るイメージから成功と発展の象徴とされ、強いパワーがあり、多くのご利益があるとされています。
- 運気が高まる
- 勝負運上昇
- 金運アップ
- 仕事運アップ
- 健康長寿
- 諸難消除には以下があ
- 火難消除
- 雨乞い・晴れ乞い
龍に会える神社
龍が見事に彫刻されている鳥居がある「東京三大鳥居」が有名です。
神社のうさぎ(兎)
神社に関係するウサギというと「因幡の白兎」が良く知られています。サメをだましたとして毛皮を剝がされて赤裸になっていたウサギを大国主神が助けたということから、ウサギが大国主神のお使い(神使)となったといわれています。
大国主神を祀る出雲大社、因幡の白兎の舞台とされる白兎神社の境内・参道には多くのウサギ像が並んでおり、ウサギを祀る神社は西日本を中心に多くあり、とくに関西や中国地方に著名な神社が点在しています。
神社とウサギの関係は因幡の白兎だけでなく、ウサギが月に棲むとされることから、月に関わる神社や、名前にウサギ(兎)の字がある応神天皇の皇子である兎道稚郎子命(うじのわきいらつこのみこと)を祀る神社でもウサギをゆかりの霊獣としています。
また、ウサギを祀る神社では、狛犬の代わりにウサギが置かれている岡崎神社、宇治神社、調神社などがあります。
うさぎのご利益
うさぎは神のお使いとして縁起の良い干支(動物)とされており、多産であることから縁結びや安産のご利益があるといわれています。
また、中国ではウサギは長寿の神様とされており、そのことが日本にも伝わり不老長寿のご利益があるとされています。
- 縁結び、夫婦円満
- 子宝、安産
- 子孫繁栄
- 不老長寿、無病息災
- 開運・飛躍・健康
- 金運上昇 など
うさぎに会える神社
- 白兎神社(鳥取県鳥取市)
- 岡崎神社(京都府京都市)
- 熊野神社(山形県南陽市)
- 大洗磯前神社(茨城県東茨城郡大洗町)
- 太子堂八幡神社(東京都世田谷区)
- 戸越八幡神社(東京都品川区)
- 赤羽八幡神社(東京都北区)
- 調神社(埼玉県さいたま市)
神社のねこ(猫)
猫は寝てばかりいて役立たずのイメージがありますが、かつては貴族も農民も寺社も猫を珍重し、時には大金を払ってでも入手していたといわれています。それはネズミによる被害を防ぐためだったからです。
ネズミは食料を食い荒らしたり、書物や衣服、家具や建具などにも大きな被害を与え、さらには疫病の原因となることがあったからです。
とくに蚕(かいこ)や繭(まゆ)をネズミに食べられてしまう養蚕(ようさん)農家にとって猫は必需の動物で、ネズミによる被害を抑えるために猫を神様として祀ることさえありました。
こうしたことから、蚕の神を祀る神社では猫をお使い(神使)としていることがあり、猫の厄除けお守りやお札などを授与している神社もあります。
猫のご利益
古代より高価な絹の生産のために、蚕や繭を病気やネズミから守ることは人々の生活の安定にとって重要でした。ネズミの被害から守ってくれる猫を祀る神社は、生活の安泰などへの願いにご利益があるといわれています。
猫を祀っている神社は、猫を飼っている人々からの人気が高く、飼い主とその猫にもご利益があるとされています。
- 家内安全
- 無病息災・健康長寿
- 商売繁盛
- 縁結び
飼われている猫の無病息災・健康長寿を願う飼い主の方は以下の神社に参拝してみてはいかかでしょうか。
猫に会える神社
猫をお使い(神使)としている神社は全国的に見ても非常に珍しいです。とくに狛猫が置かれている神社は限られており、金刀比羅神社(ことひらじんじゃ)と南部神社の2つの神社だけでしょう。
神社の馬(ウマ)
古代から、神社に祀られるウマは神使として扱われ、神様の乗り物として神聖視してきました。
そのため神に願いを届ける際には、生きた馬を捧げるというならわしがありました。
とくに祈雨・降雨、止雨を願う際、神馬が献上されました。
- 祈雨(降雨)を願うときは「雨雲」を象徴する黒馬
- 止雨を願うときは「太陽」を象徴する白馬
を奉納するのが一般的でした。
たとえば、貴船神社(京都)の境内にある二頭の神馬像は、この故事に由来します。
貴船神社のご祭神の高龗神(たかおかみのかみ)は雨水を守護する神と信仰されたことから、平安時代、天皇はしばしば勅使を派遣して馬を奉納し、祈雨・止雨の祈願を行いました。
馬(ウマ)のご利益
馬は力強く、早く、遠くまで移動できるので神々しい力を持っており、その美しい姿から、神々しさや高貴の象徴と見なされてきました。
人や物を遠くまで運ぶための重要な交通手段であったこと、農耕においても馬は重要な役割を果してきたことから、豊穣を祈る対象として崇められてきました。
また、馬の力強く前進する姿から武運や開運招福などのご利益があると信じられてきました。
- 祈雨・止雨
- 五穀豊穣
- 武運長久・勝利
- 交通安全
- 所願成就
馬(ウマ)に会える神社
神社のヘビ(蛇)
ヘビは祀られている神様のお姿や化身である場合と、お使い(神使)である場合があります。どの神様が祀られているかによって、どちらかが分かる場合もありますが、神社によっては捉え方が異なる場合もあるため、安易な判断はせずに神職に尋ねてみましょう。
ヘビに対する信仰は縄文時代以前に遡ることができるので、日本の信仰の中でももっとも古いものの一つです。
ヘビが信仰の対象となった理由の一つが「脱皮」であり、脱皮は繰り返されるため再生の象徴として不老長生の霊獣と見なされるようになったといわれています。
ヘビの姿をした神様としては、奈良県桜井市の大神神社(おおみわじんじゃ)で祀られている大物主神(おおものぬしのかみ)が有名です。「日本書紀」によれば、妻にした美女の願いによって見せた大物主神の本当の姿は「麗しい小さい蛇」であったという神話があります。
また、宗像三女神(むなかたさんじょしん)や弁財天を祀る神社などでもヘビが神使となっています。
ヘビのご利益
ヘビは脱皮を繰り返すことで体を再生させるため、死と再生を象徴する存在として、病気からの快復、人生の転機といった再生と復活への願いを叶えてくれると考えられています。また、ヘビは宝物を隠すといわれており金運上昇や、知恵の象徴でもあるので学業成就なども叶うといわれています。
- 病気平癒・起死回生
- 無病息災
- 不老長寿
- 人生の転機を乗り越える力
- 金運上昇・財産増殖
- 学業成就・合格祈願 など
ヘビに会える神社
神社のカラス(烏)
一般にカラスというとあまり良いイメージを抱かれませんが、神話や伝統的な神事では重要な役割を担っていることが多いです。
その中でももっとも知られているのが、神武天皇を熊野から大和へと道案内した八咫烏(やたがらす)で、八咫烏は熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)の使者となっています。
また、御烏喰式(おとぐいしき)という神事は、カラスが供え物も食べるかによって神意をはかる儀式であり、広島県廿日市市の厳島神社、滋賀県犬上郡の多賀神社、愛知県名古屋市の熱田神宮などで行われています。崇敬者に神意を伝える役割を担っているカラスは神社のお使い(神使)であるいえます。
さらに、上賀茂神社や下鴨神社では、賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)が八咫烏になったという伝説があり、神様である賀茂建角身命=八咫烏なので、カラスは神様の使者であると同時に神様でもあるともいわれています。
カラスのご利益
カラスは、八咫烏(やたがらす)のように、神武天皇を東征の際に道案内したことから、道に迷った人を正しい方向に導いてくれる神のお使い(神使)です。また、古くから知力や霊力を持つ存在として神聖視されており、以下の多くのご利益があるとされています。
- 開運招福
- 学業成就
- 勝負運
- 必勝祈願
- 祈願成就
- 金運
- 商売繁盛
- 交通安全 など
カラスに会える神社
- 熊野本宮大社(和歌山県田辺市)
- 熊野速玉大社(和歌山県新宮市)
- 熊野那智大社(和歌山県東牟婁郡)
- 厳島神社(広島県廿日市市)
- 多賀神社(滋賀県犬上郡)
- 熱田神宮(愛知県名古屋市)
- 出羽神社(山形県鶴岡市)
神社の獅子
聖所を守るライオンというイメージ(もしくはライオンをベースに様々な動物の要素が組み合わさった聖獣)は、古代オリエントに始まるといわれています。
それが西に伝わってスフィンクスや宮殿前のライオンとなり、東の果てである日本に伝わって獅子や狛犬となったと考えられます。
もともと獅子は古代オリエント世界からインドへ伝来し、勇猛な百獣の王として、王宮や神を祀る神社などを守護する霊獣と捉えられるようになりました。その後、朝鮮半島経由で日本に伝わり「高麗犬(こまいぬ)」と呼ばれるようになりました。
獅子は魔を祓うものと信じられるようになり、獅子の頭が悪を食べるものとして重要視されるようになり、神社の社殿の中に獅子頭を置いたり、獅子舞に発展したと考えられています。
難波八坂神社(大阪)では、上の画像のとおり、社殿が巨大な獅子頭に飲み込まれており(高さ12m、幅11m)、獅子頭の中に鎮座する神殿にご祭神の須佐之男命(素戔嗚尊)が祀られています。
獅子のご利益
獅子頭は悪を食べたり魔を祓ってくれるものであり、以下のご利益があるとされています。
- 魔除け
- 厄除け
- 疫病除け
- 商売繁盛
- 殖産興業
獅子に会える神社
神社の牛(ウシ)
牛は菅原道真公を祀る神社のお使いであり、天満宮や天神社などの神使(しんし)です。
ウシを祀るようになった理由は、道真公の生没年月日が丑年と丑日であったことにちなむといいます。
また、大宰府で没した道真公は「牛の赴くところに我が遺骸をとどめよ」という遺言を残し、遺言のとおり牛舎で遺骸を引かしたところ、突然牛が座り込んでしまい、近くの安楽寺に埋葬したというエピソードにちなみ、ウシが道真公のお使い(神使)となったともいわれています。
菅原道真公が祀られている天神社では、多くの「撫で牛」が置かれており、そのほとんどは座り込んでいるものです。
撫で牛の体に触れると病気が治ると信じられるようになり、そのため、表面に光沢がある撫で牛の銅像が多く見られます。
牛(ウシ)のご利益
天神社に祀られている菅原道真公は学問の神様として崇敬されており、お使いの牛の足腰や力が強いことから、以下のご利益があるとされています。
- 学業成就、合格祈願、必勝祈願
- 無病息災、病気平癒、家内安全
牛(ウシ)に会える天神社
関東三大天神、関西と九州の代表的な天満宮には以下があります。
神社のキツネ(狐)
狛犬を除いて境内にいる動物の中で最も知られているのは稲荷社のキツネでしょう。
稲荷社そのものがキツネだと誤解されることが多いですが、キツネは神様のお使い(神使)です。
神様に仕えているのでただのキツネではなく霊力をもっているとされることから「霊狐(れいこ)」と呼ばれることもあります。
キツネはお使い(神使)なのでその役割は、狛犬のように境内の警備ではなく、神様と参拝者・崇敬者との間を取り持つものとされています。
キツネのご利益
また、キツネは「稲穂・宝珠・鍵・巻物」を持ったり口にくわえていたりしますが、これらは豊穣や富貴をもたらす稲荷神のご神徳を象徴しています。
- 稲穂=五穀豊穣・商売繫盛
- 宝珠=所願成就の象徴
- 鍵=宝蔵を開ける鍵、所願をを叶える
- 巻物=知恵を授ける
キツネに会える神社
- 伏見稲荷大社(京都府京都市)
- 信太森神社(しのだのもり、大阪市和泉市)
- 箭弓稲荷神社(やきゅう、埼玉県東松山市)
- 東伏見稲荷神社(東京都西東京市)
- 根津神社(東京都文京区)
- 山王稲荷神社 千本鳥居(東京都千代田区)
今後も神社に祀られている他の動物についても追加していきますのでご期待ください。
この記事に書かれてる情報が皆様の神社への参拝に役に立つように執筆してまいります。
コメント