函館山の麓に鎮座する函館八幡宮は、室町時代創建の由緒ある神社で、函館の総鎮守として市民から「八幡さま」と親しまれています。初詣には函館最多の参拝者が訪れ、海上安全や厄除けなど幅広いご利益を授かれる神社です。
近年では、俳優の菅田将暉さんと女優の小松菜奈さんが結婚式を挙げたことでも注目を集め、歴史と伝統に加えて「人生の節目を祝う場」としても広く知られるようになりました。
この記事では、北海道函館市の総鎮守「函館八幡宮」について、歴史やご祭神、ご利益、御朱印やお守り、アクセス情報まで徹底的にレビューします。
函館八幡宮の由緒・歴史・沿革

函館八幡宮の創建は文安2年(1445年)。亀田郡領主・河野政通が館を築いた際、その鎮守として八幡神を祀ったのが始まりです。
館はその後失われ、現在は元町公会堂付近が館跡と伝えられています。館の形が「箱」に似ていたことから「箱館」と呼ばれ、これが現在の函館の地名の由来となりました。
八幡神が鎮守に選ばれた理由は、応神天皇=八幡神が武運長久・国家鎮護の神であったためです。領主が館を守るためには武勇に優れ力強い八幡神を祀るのが最適だと考えたからです。
江戸時代に入ると、函館八幡宮は箱館奉行所の祈願所となり、幕府直轄領の政治・軍事の拠点を霊的に守護しました。また蝦夷地総社として北海道全域の総鎮守的存在となり、蝦夷地の神社信仰の中心を担いました。
現在の社殿は大正4年(1915年)に竣工したもので、「聖帝八棟造」という独特の様式で建てられています。
「聖帝八棟造」という独自様式の社殿

屋根が多方向に伸びる、威厳かつ華麗な聖帝八棟造
函館八幡宮の社殿の建築様式は「聖帝八棟造(しょうていはっとうづくり)」と呼ばれています。明治神宮などの設計を手掛けた安藤時蔵(あんどう ときぞう)氏によるものです。
聖帝八棟造は、日本の伝統的な神社建築の中でも他に類を見ない独創的な様式であり、全国の神社で唯一、函館八幡宮の社殿に採り入れられています。
上の画像のとおり、全体の基本構造は、拝殿(参拝処)→幣殿(石の間)→本殿、いわゆる権現造りの流れを汲んでいますが、聖帝八棟造は、以下の二つの伝統様式を融合させたもので、函館八幡宮の独自の建築様式です。
- 聖帝造(しょうていづくり) / 日吉造(ひえづくり)
「聖帝造」は、本殿の形式を示す「日吉造」の別称で、屋根は入母屋造を基本としつつ、正面と両側面の三方に庇(ひさし)が巡らされた極めて珍しい構造を持っています。古代の寝殿造の要素も取り入れられ、優雅さと荘厳さを兼ね備えており、現存する代表的な採用例は滋賀県の日吉大社の社殿です。 - 八棟造(やつむねづくり)
八棟造とは、社殿の屋根が八方向に伸びて複雑に組み合わされている様式で、実際に屋根が八つあるわけではなく、入母屋造や切妻造などの要素が巧みに組み合わされ、複数の棟が交差・重なり合うことで立体的な造形を生み出しています。この複雑な構造は、社殿全体が大きく見える効果があり、威厳と華麗さを与える建築様式であり、北野天満宮や久能山東照宮など採用例は限られている珍しいものです。
函館八幡宮の「聖帝八棟造」は、「聖帝造(日吉造)」と「八棟造」の組み合わせて一体化した、全国で唯一無二の複合様式である点が大きな特徴です。
函館八幡宮は、なんの神様?

「集古十種」にある「応神帝御影」に参考に作成
函館八幡宮では以下の四柱が祀られています。
- 誉田別尊(ほんだわけのみこと)
応神天皇(おうじんてんのう)と同一視され、全国の八幡宮で主祭神として祀られている八幡神です。
【応神天皇】八幡神社のご祭神・何をした、その生涯を詳しく徹底解説|誉田別尊の物語から八幡信仰まで八幡神社のご祭神、応神天皇(誉田別尊)の生涯を徹底解説。神功皇后の三韓征伐、朝鮮半島との交流による文化導入の功績、源氏に崇敬された八幡信仰のルーツから武家の守護神「八幡大神」に至る物語を詳しくご紹介します。 - 住吉大神(すみよしのおおかみ)
住吉大神は、底筒男命、中筒男命、表筒男命という三柱の神様の総称です。海にまつわる神様として広く知られており、海の平穏を司る神様として、海に面した函館の地で特に大切にされています。 - 金刀比羅大神(ことひらのおおかみ)
一般的には、大物主神(おおものぬしのかみ)が祀られることが多く、香川県の金刀比羅宮(こんぴらさん)を総本宮とします。海運の守護神としての性格が強く、歴史的に船乗りたちから厚い信仰を集めてきた神様です。 - 倉稲魂命(うかのみたまのみこと)
境内に鎮座する鶴若稲荷神社(つるわかいなりじんじゃ)には、倉稲魂命(うかのみたまのみこと)が祀られています。稲の霊が神格化されたものであり、人々の衣食住の基盤を司る身近な神様として信仰されています。
鶴若稲荷神社の「鶴若」の由来
鶴若稲荷神社の「鶴若」という名は、創建時に鶴が舞い降り、境内の若木に止まった瑞兆(ずいちょう)に由来します。鶴は長寿や吉祥の象徴であり、若木は成長と繁栄を意味します。この出来事を神意と受け止め、稲荷社に「鶴若」の名を冠したと伝えられています。以来、鶴若稲荷神社は五穀豊穣や商売繁盛を祈る人々から篤く信仰されてきました。
函館八幡宮のご利益
主に以下のご利益をお与えくださると信仰されています。
- 勝運・厄除け:応神天皇(誉田別尊・八幡神)の武運神徳。
- 海上安全・大漁祈願:住吉大神の航海守護。
- 商売繁盛:金刀比羅大神の海運・経済守護。
- 五穀豊穣・商売繁盛・家内安全:倉稲魂命(鶴若稲荷)の稲作・豊穣のご神徳。
函館八幡宮の見どころ
八幡坂からの眺望

海まで一直線で一望できる八幡坂
「八幡坂」は函館観光の人気撮影スポットで、函館八幡宮がその名前の由来となっています。函館八幡宮が坂の頂上近くに建てられたことで、目の前にあった坂がそのまま「八幡坂」と呼ばれる表参道となったといわれています(マップ上でも一直線の道路に表参道と記載されている)。
表参道の大階段

二の鳥居の手前から社殿まで134段の石段があります。この長い階段を心を整えながら登ることは、神前に至る前の禊のような役割を果たします。登り切った先に現れる社殿は荘厳で、登り切った達成感と清浄な心をもたらします。例祭では御神輿がこの石段を駆け上がる勇壮な「大神輿かけのぼり神事」が行われたりします。
三の鳥居と扁額

扁額は社名ではなく神威
函館八幡宮の扁額「神威(しんい)」は、閑院宮 載仁親王による揮毫です。
閑院宮 載仁親王(かんいんのみや ことひとしんのう)は、日本の近代において天皇を支える重要な皇族の一員であり、四つの世襲親王家の一つである閑院宮家の親王でした。載仁親王は、陸軍の元帥という軍の最高位に就いた軍人でもありました。
「神威」という神社名ではない扁額を掲げている理由は定かではないですが、私見としては、明治から大正時代にかけての国家神道の体制下で、天皇の現人神としての威信と権威を発揚する上で親王が「神威」を揮毫したのではないかと思います。
鶴若稲荷神社

鶴若稲荷神社は、もともと函館八幡宮の社内に祀られていましたが、明治12年(1879年)に高砂町へ分遷し、独立した神社として七ヶ町の鎮守となっていました。
第二次世界大戦末期の昭和20年(1945年)、戦火を避けるための建物疎開により社殿は解体されてしまい、戦後に元の場所での再建が困難になったため、昭和25年(1950年)に再び函館八幡宮の境内へと遷され、現在は末社として鎮座しています。

函館八幡宮の御朱印

美しい行書体の御朱印、大のお気に入りです
函館八幡宮では、通常御朱印と鶴若稲荷神社の御朱印の2種類がいただけます。
また、毎月の限定御朱印も頒布されています。さらに祭事や季節に合わせて限定御朱印が授与されることがあり、桜や函館山の夜景をモチーフにしたものなど、函館らしい意匠の御朱印が人気です。
今回は通常御朱印を拝受しました。
右上には、参拝を示す「奉拝」、中央には神社の「函館八幡宮」、その左には参拝した日付が力強く墨書きされており、朱色の印は、「函館八幡宮印」と「函館総鎮守」の印文が押されています。墨書きは行書体で、流れるような筆遣いで勢いと美しさが際立っているお気に入りの御朱印です。
函館八幡宮のお守り・おみくじ

願いに応じた20種類以上のお守りがある
お守り・神札
函館八幡宮のお守りは、さまざまな願いに応じるお守りが頒布されており、誕生月の「花まもり」の人気が高いらしいです。
人気の花まもり

誕生月の花言葉がお守りに書かれている
誕生月の花の名前と花言葉がきれいに刺繍されており、見ているだけでも心が温まる、常に持ち歩きたいデザインのお守りです。厄除け・運気上昇といった効果があるとされています。初穂料700円。
子授け守り・身代わり守り
- 子授け守り:初穂料800円
- 身代わり守り:初穂料1,000円
勝負・学業守り
- 錦守り:初穂料300円
- 勝守り:初穂料500円
- 学業守り:初穂料500円
- 合格守り:初穂料700円
健康・病気平癒守り
- 健康守り:初穂料500円
- 肌身守り:初穂料500円
- 福鈴ふくろう守り:初穂料700円
- 病気平癒守り:1,500円
- 鳩守り:初穂料800円
交通安全守り
- キーホルダー守り:初穂料500円
- 交通金守り:初穂料300円
- 小型房付守り:初穂料800円
- ステッカー守り:初穂料500円
- 水晶守り:初穂料1,000円
- 交通錦守り:1,000円
- 房付守り:初穂料800円
- 木札守り:初穂料500円
安産守り・縁結び守り・厄除け守り
- 縁結び守り:初穂料500円
- 夫婦守り:初穂料1,000円
- 安産守り:初穂料1,500円
- 厄除け守り:初穂料500円
- 福守り:初穂料800円
家内安全や商売繁盛の神札

家内安全や商売繁盛などの御神札です。神棚を持っている人、神様への感謝を捧げたい方、家内安全など良い運気を招き入れたい人にいいですね。
函館八幡宮のおみくじ

函館八幡宮でおみくじを引くなら「幸福みくじ(しあわせみくじ)」がおすすめです。おみくじに加えて縁起物(銭亀、升、熊手、かえる、種銭、当たり矢、おかめ、稲穂、招き猫、小槌)が一つ入っています。

おみくじに縁起物も同封されている
函館八幡宮の基本情報
【住所】 北海道函館市谷地頭町2-5
【電話番号】 0138-22-3636
【参拝時間】 終日可能
【祈祷受付時間】 9:00~17:00
【ご祭神】
・主祭神:応神天皇(おうじんてんのう)
・住吉大神(すみよしのおおかみ)
・金刀比羅大神(ことひらのおおかみ)(配祀神)
【末社】鶴若稲荷神社(つるわかいなりじんじゃ)
祭神:倉稲魂命(うかのみたまのおおかみ)。
【ご利益】 開運招福、海上安全、商売繁盛、厄除け、家内安全、学業成就、縁結び、武人の神としての勝負運など
【公式サイト】 なし(北海道神社庁のページに関連情報あり)
アクセスと駐車場
最寄駅:谷地頭駅
市電「谷地頭」終点から徒歩約10分(約600m)。
谷地頭駅からの徒歩ルート
表参道の八幡坂(上り坂)を一直線に進むと一の鳥居を経て着きます。600メートル弱の距離ですが上り坂なので10分近くはかかります。
函館八幡宮 駐車場
境内に参拝者専用駐車場あり(無料・約10台前後)。
大型車や観光バスは不可。
初詣や祭礼時は満車になりやすいため、谷地頭駅からの徒歩、周辺の有料観光駐車場(タイムズ函館山、元町観光駐車場など)の利用を推奨。
祭典・年間行事
函館八幡宮 年間行事一覧(月別)
| 月 | 行事名 | 概要 |
|---|---|---|
| 1月 | 歳旦祭(さいたんさい) | 元日に行われる、一年の平穏と皇室の弥栄を祈るお祭り。元始祭(1/3)、どんど焼もこの月に実施。 |
| 2月 | 節分祭(せつぶんさい) | 2月3日に行われる、厄除けと招福を願う祭典。 |
| 4月 | 祈年祭(きねんさい) | 五穀豊穣と産業の発展を祈るお祭り。 |
| 6月 | 大祓式(おおはらいしき) | 6月末の夏越の祓。半年間の罪穢れを祓い清める神事。 |
| 8月 | 例大祭(れいたいさい) | 8月14日・15日に行われる神社で最も重要な祭典。境内は祭り市などで賑わう。 |
| 8月 | 大神輿かけのぼり神事 | 例大祭の中で行われる。偶数年には134段の石段を大神輿が一気に駆け上がる迫力ある神事。 |
| 11月 | 新嘗祭(にいなめさい) | 収穫された新穀を神様にお供えし、豊穣に感謝するお祭り。 |
| 12月 | 大祓式(おおはらいしき) | 12月末の年越の祓。一年の罪穢れを祓い清める神事。 |
| 12月 | 除夜祭(じょやさい) | 大晦日に行われる、新年を迎えるための最後の祭典。天長祭もこの月に行われます。 |
大神輿かけのぼり神事

1.5トンもの大神輿をかけ上がる勇壮な神事(出典:北海道神社庁)
函館八幡宮の大神輿かけのぼり神事は、神社で最も重要な例大祭(8月14日・15日)のハイライトとして、隔年(原則として偶数年)に執り行われます。
この神事では、約1.5トンもの重さがある大神輿を数十人の担ぎ手が担ぎ上げ、社殿へ続く134段の急な石段を一気に駆け上がるという、全国でも稀な、非常に勇壮で迫力満点の神事です。担ぎ手の熱気と信仰の力強さを体現し、例大祭の最大のクライマックスとなります。
この記事のまとめ
函館八幡宮は室町時代創建の由緒ある神社で、海上安全・厄除け・商売繁盛など幅広いご利益を授かれる総鎮守です。
大正期独自の「聖帝八棟造」の社殿や134段の石段参道は荘厳で、御朱印やお守りも人気があります。
例祭では御神輿が石段を駆け上がる勇壮な神事が行われ、近年は菅田将暉さんと小松菜奈さんの結婚式でも注目を集めました。
アクセスも良好で、観光・参拝の両面で必訪のスポットです、この記事を参拝に際しての参考として頂けたら幸いです。




