東京都府中市西府町にある、全国的にも非常に珍しい歴史スポットをご存知でしょうか?
国指定史跡である「武蔵府中熊野神社古墳」は、日本国内でわずか7基しか確認されていない極めて貴重な「上円下方墳(じょうえんかほうふん)」です。そして、その目と鼻の先には、静かな佇まいで地域を見守る「熊野神社」が鎮座しています。
同じ敷地内に位置するこの2つのスポットは、古代のロマンと神聖な空気を一度に体感できる、歴史好きにはたまらない名所です。
今回は、実際に現地を訪問して撮影した豊富な写真付きで、見どころからアクセスまで徹底解説します!
【この記事でわかること】
- 日本最大級の上円下方墳「武蔵府中熊野神社古墳」の特徴と歴史
- 出土品や復元模型が楽しめる「展示館」の魅力
- 隣接する「熊野神社」の御祭神と境内の見どころ
- JR南武線「西府駅」からの徒歩ルート&駐車場情報
「日本に7基しかない貴重な古墳から武蔵国の古代史ロマンを感じたい方」や、「由緒ある熊野神社への参拝と合わせて、府中のディープな歴史散策を楽しみたい方」は、ぜひ参考にしてみてください。
国史跡「武蔵府中熊野神社古墳」とは?

国史跡として学術的価値が非常に高い
熊野神社の境内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、美しく復元された巨大な石積みの生み出す圧倒的な存在感です。
この古墳の前に立つと「国史跡」と刻まれた石碑が目を引きます。
普段何気なく耳にする「国史跡(国指定史跡)」ですが、これは「日本の歴史や文化を理解する上で極めて高い学術的価値があり、国(文部科学大臣)によって法的に保護されている重要な文化財」であることを意味します。
武蔵府中熊野神社古墳は、その類まれなる歴史的価値が認められ、2005年(平成17年)7月14日に国の史跡に指定されました。まさに、日本が国を挙げて守るべきトップクラスの歴史遺産なのです。
日本最大級の上円下方墳!その歴史と特徴

西側の正面から見た全体
全国にわずか7基!不思議な「上円下方墳」の謎
武蔵府中熊野神社古墳の最大の特徴は、その独特な形状にあります。形状は、「下が四角形(下方)で、その上に丸いドーム状(上円)の墳丘が乗っている」という極めて珍しい「上円下方墳(じょうえんかほうふん)」です。
現地解説板(上記画像)によると、古代の中国には「天は丸く、大地は四角い」とする宇宙観(天円地方・てんえんちほう)があり、この思想を背景に築造されたと考えられています。全国でわずか7基しか見つかっていないことからも、当時の最先端の思想を取り入れた特別な最高権力者の墓であったことが伺えます。
三段構造が織りなす「日本最大級」のスケール

三段構造の解説(クリックで拡大)
この古墳は、上円下方墳の中では日本最大級の規模を誇ります。綺麗な三段構造になっており、その具体的なサイズは以下の通りです。
| 構造(階層) | 形状とサイズ |
| 1段目(最下層) | 一辺 約32メートルの四角形(下方部) |
| 2段目(中層) | 一辺 約23メートルの四角形(下方部) |
| 3段目(最上層) | 直径 約16メートルの円形(上円部) |
| 全体の高さ | 約6メートル |
古代のハイテク技術「版築」と「葺石・貼石」
これほど巨大で美しい形を保つため、飛鳥時代(7世紀中頃)の最先端技術が惜しみなく投入されています。
- 版築工法(はんちくこうほう): 質の異なる土をわずか2〜5cmごとに交互に敷き詰め、上からドシドシと叩き締めて強固な土台を築き上げています。
- 葺石(ふきいし)と貼石(はりいし): 墳丘の表面は、すべて多摩川から運ばれた石で覆われています。斜面には崩れにくいよう石垣状に積む「葺石」、平らな面にはタイル状に敷き詰める「貼石」と、場所によって職人技を使い分けていました。
国宝級の出土品と、武蔵国の有力者
この古墳の主(被葬者)の詳細は未だ謎に包まれていますが、石室からは国内初・世界唯一となる銀象嵌(ぎんぞうがん)の「七曜文(しちようもん)」が施された大刀の鞘尻金具(さやじりかなぐ)が出土しています。
この模様は、日本最古の貨幣「富本銭(ふほんせん)」にも見られる最先端のデザイン。これほどの最新文化を取り入れられた人物であることから、当時は「武蔵国(むさしのくに)の東国を治めていた、最高峰の有力者」であったことは間違いありません。

熊野神社の北鳥居の先に聳え立っている
熊野神社の北鳥居の向こうにそびえる古墳です。神社とこれほど綺麗に隣接している景色も、全国的に見て大変ユニークで見応えがあります。
古墳と隣接する「熊野神社」にも参拝

古墳と熊野神社が隣同士
武蔵府中熊野神社古墳のすぐ隣に鎮座するのが、長きにわたりこの地の歴史を見守り続けてきた「熊野神社」です。
驚くべきは、古代の最高権力者が眠る上円下方墳と、人々の信仰を集める神社が遮るものなく地続きで一体の空間になっていること。引きで境内を見渡すと、復元された古墳の美しい石積みと神社の厳かな社殿が綺麗に並び立つ、ここでしか見られない独特の神聖な景観が広がっています。

熊野神社の扁額と重厚な注連縄
石造りの大鳥居に掲げられた重厚な注連縄(しめなわ)をくぐり、一歩境内へ足を踏み入れると、見上げるほどの大きな木々が心地よい木陰を作っており、周囲の住宅街とは一線を画す静謐な空気に包まれます。

木々に囲まれた厳かな空間に包まれます
熊野神社の御祭神とご利益
こちらの熊野神社は、和歌山県の「熊野三山」から神様をお迎え(勧請)して祀っている、非常に由緒ある神社です。
御祭神
- 素戔嗚尊(すさのおのみこと)
- 伊弉册命(いざなみのみこと)
- 事解之男命(ことさかのおのみこと)
- 速玉之男命(はやたまのおのみこと)
が祀られています。
主なご利益
古くから「よみがえりの神」として強い生命力を授ける神様とされ、現代でも「家内安全」「厄除け」「縁結び」「開運招福」などのご利益で篤く信仰されています。
熊野神社の社殿について

社殿に関する解説
境内の中央に佇む社殿(本殿・拝殿)は、その歴史的・建築的価値の高さから「府中市指定文化財(建造物)」に指定されています。
現地の上記の解説板によると、本殿と拝殿はそれぞれ異なる時代に建てられており、江戸時代中期から幕末にかけての貴重な神社建築の造形を今に伝えています。

左から本殿、幣殿そして拝殿
本殿
熊野神社の「本殿」は、江戸時代中期の18世紀前半に造営されたと推定されている歴史ある建築物です。
全体的に虹梁絵様(こうりょうえよう)や彫刻の構成が簡素にまとめられているのが特徴。本格的に施工された屋根の「柿葺(こけらぶき)」は、造営当時の状態を非常によく留めています。当時の府中周辺地域における社殿の形態を良好に残す、市内でも数少ない極めて貴重な建造物として「府中市指定文化財」に指定されています。
拝殿

本殿の手前に建つ「拝殿」は、幕末期にあたる19世紀前半の建築と推定されています。
この建築年代の強力な根拠となっているのが、室内の長押(なげし)の上に掛けられた木板や、建物を支える梁(はり)に残された「墨書(ぼくしょ)」です。当時の貴重な記録が建物自体にしっかりと刻まれており、本殿とともに一棟として市の指定文化財となっています。
向拝を彩る華やかな木彫り装飾
19世紀前半の建築である拝殿は、その正面に突き出た「向拝(こうはい)」部分に施された、非常に華やかで躍動感あふれる木彫り装飾が見どころです。

躍動感がある龍の木彫
梁の上には、今にも動き出しそうなほど立体的に波打つ精巧な「龍の彫刻」が施されており、当時の職人の息吹と高い技術力が伝わってきます。

唐獅子と獏の木彫
さらに視線を柱の先端(木鼻・きばな)に移すと、そこには精巧に彫られた「獅子(しし)」、そしてその右側には象のように長い鼻を持つ霊獣「獏(ばく)」の姿があります。
江戸時代から幕末の神社建築によく見られる高名な組み合わせで、獅子は「魔除け」、獏は「悪夢を食べて平和をもたらす、火災を防ぐ」という、社殿や参拝者を災いから守るための強い願いが込められています。

歴史を感じさせる扁額
正面中央には長い歳月を経て美しい木目が浮き出た「熊野神社」の「木製扁額」が掲げられています。

八衢比古神と八衢比売神が祀られている
境内社(八衢比古神・八衢比売神)
拝殿の周辺には、大切に手入れされた緑に囲まれるようにして、2基の小さな祠(ほこら)が並ぶ「境内社」が鎮座しています。
2つの祠の間にある石柱を近くでよく見てみると、向かって右側に「八衢比古神(やちまたひこのかみ)」、左側に「八衢比売神(やちまたひめのかみ)」の名がしっかりと刻まれているのが分かります。
この二柱の神様は、古くから道の分岐点(辻)や境界に祀られ、外からやってくる疫病や悪霊などの「邪気・災い」が境内に侵入するのを防ぐ「道祖神(塞の神・さえのかみ)」としての信仰を集めています。また、旅の安全を守る「道中安全」の守護神としても篤く崇められてきました。
本殿や拝殿の厳かな空気感とはまた一味違う、地域の人々の暮らしや旅人の安全を静かに見守り続けてきた優しくも力強い信仰の形を、この美しい佇まいから感じることができます。
合わせて寄りたい!「武蔵府中熊野神社古墳展示館」と「石室復元展示室」

古墳と神社をゆっくり巡ったら、ぜひ合わせて足を運びたいのが、敷地内に隣接する「武蔵府中熊野神社古墳展示館」です。

コンクリート調のモダンで洗練されたデザインが目を引くこの展示館では、古墳から出土した国宝級の貴重な文化財(銀象嵌の大刀金具など)のレプリカや、当時の歴史背景についてさらに深く学ぶことができます。
武蔵府中熊野神社古墳 展示館の基本情報
【所在地】東京都府中市西府町2丁目9番地
【電話番号】042-368-0320
【開館時間】
4月1日~10月31日:午前9時~午後5時
11月1日~3月31日:午前10時~午後4時
※季節によって開館・閉館時間が異なりますので、訪問の際はご注意ください。
【休館日】
毎週月曜日(月曜日が祝日や振替休日に当たる場合は、その直後の平日が休館となります)
年末年始(12月29日~1月3日)
臨時休館日
【主な展示内容】
解説パネル、発掘調査中の貴重な写真、墳丘土層標本(古墳の地層の実物標本)など
必見!リアルに再現された「石室復元展示室」

展示館のすぐ側には、古墳の内部構造を肌で体感できる「石室復元展示室」が屋外に設置されています。
強固な石組みで造られた古墳の「石室(玄室)」が実物大のスケールでリアルに再現されており、防護フェンス越しにその重厚な造りを間近で見学することができます。飛鳥時代の職人たちが、いかに高度な石積みの技術を持っていたのかを直に感じられる、非常に見応えのあるスポットです。
武蔵府中熊野神社古墳・熊野神社の基本情報
現地を訪れる前に整理しておきたい、古墳と神社それぞれの特徴や基本情報を別々にまとめました。
武蔵府中熊野神社古墳の基本情報
【古墳の形状】上円下方墳(全国でわずか3例しか確認されていない極めて貴重な構造)
【築造時期】飛鳥時代(7世紀中頃~後半)
【主な特徴】
・東日本で唯一の上円下方墳であり、国内最大・最古の規模を誇ります。
・復元された美しい3段の石積みにより、当時の姿がリアルに再現されています。
・屋外には実物大の「石室復元展示室」があり、防護フェンス越しに重厚な内部構造を間近で見学可能です。
府中熊野神社の基本情報
【住所】〒183-0031 東京都府中市西府町2丁目9-5
【電話番号】なし
※常駐の神職がいない兼務社のため、神社直通の電話はありません。御朱印等の問い合わせは本務社である「大國魂神社(042-362-2130)」、または敷地内の「武蔵府中熊野神社古墳展示館(042-368-0320)」へとなります。
【ご祭神】
・主祭神:素戔嗚尊(すさのおのみこと)、伊弉册命(いざなみのみこと)、事解之男命(ことさかのおのみこと)、速玉之男命(はやたまのおのみこと)
・境内社:八衢比古神(やちまたひこのかみ)、八衢比売神(やちまたひめのかみ)
【ご利益】
家内安全、厄除け、開運招福、縁結び、道中安全(境内社:厄除け・結界の神)
【公式サイト】なし
※神社独自の公式サイトはありません。「東京都神社庁」の公式ページや、本務社である「大國魂神社」のウェブサイト等に情報を確認してください。
府中熊野神社の祭典・年間行事
秋に開催される「例大祭」と「古墳まつり」は、境内が最も熱気に包まれるイベントです。
熊野神社の例大祭
- 9月15日(または9月中旬の連休)
- 熊野神社における最も重要なお祭りです。当日は地域の五穀豊穣や安全を願い、威勢の良い掛け声とともに神輿(みこし)が渡御するほか、精巧な彫刻が施された山車(だし)が巡行し、太鼓やお囃子の音色が境内や周辺の街並みを賑やかに彩ります。
国史跡 武蔵府中熊野神社古墳まつり
「地域の宝である古墳をより多くの人に知ってもらい、街を活性化させたい」という地元の熱い想いから始まった、全国的にも珍しい古墳が主役のお祭りです(府中市・武蔵府中熊野神社古墳保存会主催)。
境内特設ステージでは、地元の幼稚園・小学校によるダンスや和太鼓演奏、高校のジャズバンド演奏、武蔵国府太鼓の響演などが次々と披露されます。
さらに、古墳の主に捧げる「雅楽と舞」の奉納や、古墳をテーマに活動するアーティストのライブなども行われ、子どもから大人まで一日中楽しめる他にはない魅力的なイベントとなっています。
アクセス・駐車場情報

「武蔵府中熊野神社古墳」の看板が目印
古墳、神社、展示館はすべて同じ敷地(境内)に一体となっています。視認性の高い大きな案内看板も設置されているため、初めての方でも安心です。
電車でのアクセス
- 利用路線:JR南武線
- 最寄り駅:「西府駅」(北口)
- 所要時間:西府駅から徒歩で約8分(約600m)
※駅から現地までは平坦な道のりが続きます。周辺の落ち着いた街並みをのんびり散策しながら歩くのにちょうどよい距離感です。
車でのアクセスと駐車場
- 高速道路から:中央自動車道「国立府中IC」から車で約5~10分
- 駐車場:参拝者専用駐車場はありません。武蔵府中熊野神社古墳展示館、神社周辺のコインパーキングをご利用ください。
※周辺は閑静な住宅街となっており、一部生活道路として道幅が狭い場所もあるため、運転の際は歩行者や対向車に十分ご注意ください。
この記事のまとめ
「武蔵府中熊野神社古墳」と「熊野神社」は、飛鳥時代の貴重な古代遺跡と、江戸・幕末の美しい社殿建築がひとつの境内に融合した、見どころ満載の歴史スポットです。
最後に、今回ご紹介したポイントをシンプルに振り返ります。
- 武蔵府中熊野神社古墳:全国に3例しかない、復元された美しい「上円下方墳」
- 熊野神社の社殿:幕末の職人技が光る、龍・獅子・獏の見事な木彫り彫刻(市指定文化財)
- 西府町公会堂と境内社:参道に佇む味わい深い木造建築と、境内を護る道祖神(塞の神)
- 展示館と石室復元:古墳の発掘データや地層を学び、実物大の石室を間近で見られる施設
緑豊かで静謐な境内は、週末の歴史散策やカメラを片手のウォーキングにぴったりです。JR南武線「西府駅」からも徒歩約8分とアクセスしやすいので、ぜひ一度足を運んで、その奥深い魅力を肌で体感してみてください!



