東京の都会の喧騒の中にありながら、静寂と歴史を感じさせる港区にある芝公園。その一角にひっそりと佇むのが「円山随身稲荷大明神(まるやまずいしんいなりだいみょうじん)」です。
この記事は、この地味ながら由緒あるお稲荷様について紹介します。
由緒・歴史
円山随身稲荷大明神の創建は、江戸時代に遡ると言われています。
もともとは芝増上寺の鎮守社として祀られていたとされ、増上寺の広大な敷地の一部であった円山(現在の芝公園の一部)に鎮座していました。
「随身(ずいしん)」とは、貴人に付き従う護衛を意味し、古くから人々や土地を守護する神様として信仰されてきました。特に江戸時代には、増上寺を訪れる多くの人々、そしてその周辺に住む町人たちの信仰を集め、商売繁盛や家内安全の祈願所として賑わったと伝えられています。
明治維新後の神仏分離令や、関東大震災、東京大空襲といった歴史の荒波を乗り越え、現在もなおその神聖な存在感を放ち続けています。
ご祭神
円山随身稲荷大明神のご祭神は、宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)です。
宇迦之御魂大神は全国の稲荷神社の主祭神として祀られている神様です。
古事記や日本書紀と言った日本神話に登場する食物・穀物の神様であり、五穀豊穣、商売繁盛、産業の発展、衣食住の守護神として広く信仰されています。お稲荷様として親しまれている多くの神社で祀られている神様です。
ご利益
ご祭神である宇迦之御魂大神のご神徳により、円山随身稲荷大明神では以下のご利益があるとされています。
- 商売繁盛
事業の成功、売上向上、顧客獲得など、ビジネス全般の繁栄。 - 家内安全
家族全員の健康と安全、家庭円満。 - 五穀豊穣
農業に従事する方々にとっては豊作を祈願。現代においては、生活の糧となる「実り」全般を指すことも。 - 開運招福
良い運気を呼び込み、幸福をもたらす。 - 厄除け
災厄を払い除け、平穏な日々をもたらす。
見どころ
円山随身稲荷大明神は、規模こそ大きくありませんが、その佇まいには歴史と趣が感じられます。
朱塗りの鳥居
稲荷神社を象徴する鮮やかな朱色の鳥居が佇んでおり、神聖な空間へと誘います。
様式は明神系の鳥居ですが、通常の稲荷鳥居とは異なり、島木の下に台輪が付いていないのが特徴です(稲荷鳥居とは、全国の稲荷神社の総本宮である伏見稲荷大社を発祥とする鳥居の建築様式です)。
本殿
円山随身稲荷大明神は、港区立芝公園内の都内最大級の前方後円墳である芝円山古墳のくびれ部分に鎮座しています。古墳の上に神社が建てられている例は他にもありますが、これほど大規模な古墳の一部に社殿が設けられているのは珍しいといえます。
増上寺の裏鬼門を護る重要な役割を担ってきたため、その本殿も増上寺との関係性の中で維持されてきたと考えられます。具体的な創建年代や改築の記録については詳細が不明な部分もありますが、その起源は増上寺のご本尊が江戸に移された元和2年(1616年)にまで遡るとされています。
周辺の自然(円山古墳)
芝公園の豊かな緑に囲まれた丸山古墳の中に鎮座しており、都会の中にいることを忘れさせてくれる静寂な空間です。特に新緑の季節や紅葉の時期は、そのコントラストがより一層美しく映えます。
芝東照宮との関係
円山随身稲荷大明神と芝東照宮は芝公園内で隣り合わせの位置にあります。
円山随身稲荷大社は増上寺の裏鬼門を守護し、芝東照宮は増上寺の境内に徳川家康公を祀るために創建された歴史を持ち、いずれも増上寺と深い関りを持ちます。明治の神仏分離令を経て、円山随身稲荷大社は芝東照宮の末社となりました。

円山随身稲荷祈願会
増上寺では、旧暦の二の午にあたる2月の日(今年は2月22日)に円山随身稲荷祈願会を開催しています。
御導師、式楽衆、講中、檀信徒が安国殿前から練行列を行い、出世福寿を願う祈願旗が奉納された円山稲荷御宝前において、御親修によるご祈願が行われます。
アクセス
- 所在地: 東京都港区芝公園4丁目地内(芝公園内)
- 都営三田線「芝公園駅」: A4出口より徒歩約5分
- 都営大江戸線・都営浅草線「大門駅」: A6出口より徒歩約15分
- JR山手線「浜松町駅」: 北口より徒歩約18分
基本情報
- 社名:円山随身稲荷大明神(まるやまずいじんいなりだいみょうじん)
- 鎮座地:東京都港区芝公園4丁目地内(芝公園内)
- ご祭神:宇迦之御魂大神
- 参拝時間:終日参拝可能(周辺は芝公園のため、夜間は明かりがなく、人通りもないため参拝しないでください)
- 御朱印などの授与品:社務所もなく授与されていません。
- 駐車場:専用駐車場なし(芝公園周辺の有料駐車場を利用)
- お問い合わせ:増上寺または周辺の管轄神社にご確認ください。
記事まとめ
円山随身稲荷大明神は、東京の中心部にありながら、穏やかな時間と歴史を感じさせてくれる貴重な場所です。芝公園や増上寺を訪れる際は、ぜひ足を延ばして、この小さなお稲荷様にもご挨拶してみてはいかがでしょうか。きっと、あなたの心に静かな安らぎと良いご縁をもたらしてくれるはずです。